Wikipedia の丸ごと要出典な記事は,百科事典としての相応しさはともかく,その節の筆者の生き様を感じさせる,読んで面白いものが多い。
その一例がこれ。
(この記事の執筆時点の版)
しかし、台湾において同性愛者間における呼びかけの言葉として同志が用いられ始め、1990年代以降は中国国内においても次第に同性愛者間の呼びかけの意味が強くなってきており、古参の共産党員以外ではあまり用いられなくなっている。党内部では2010年代においても「同志」の語が用いられ続けているが、一般社会では誤解を避けるため、革命同志に対しては“先生”か“女士”を使っておいた方が無難である。
実に役に立つ情報である。あらぬ誤解を避けるため,台湾で一般社会において革命同志に呼びかけるときは「同志」ではなく「先生」ないし「女士」を使うのである。「(日本語を母語とする者が)台湾で」「一般社会において」「革命同志に」呼びかける機会がはたしてあるのかどうか,などという疑問は野暮というものである。
またこのページでは,「同志」の各国語での一覧も書いてある。百科事典として見るときは,その性質に相応しくない冗長な記載であるが,かなり興味深いことを知ることができた。
朝鮮語동지、同志 〔トンジ〕 – 目上に用いる。동무、同務 〔トンム〕 – 目下または同僚に用いる。本来は漢字表記のない固有語(「親しい友」を意味する)で、同務は当て字。
なんと朝鮮語では「同志=トンジ」は目上の人に対して言うもので,同輩に対しては「トンム」という別の語を使うそうである。さすがは儒教の国?
もちろん出典は付されていないので検索して見ると,ネイティブによる興味深い説明があった。
同務=友達の意味、しかし最近の韓国では使われない
同志=もっと大げさな感じ革命を共にする、見たいなやつ?です
つまり,日常では当時「友達」の意味で普通に使われていた語彙が流用され,フォーマルな場ではイデオロギー色を帯びた漢語が使われたようである。かならずしも儒教の影響が原因というわけでもなさそうだ。
そういえば同じく儒教の影響が色濃いベトナムでも社会主義国とは思えないほど長幼の序が重視されていたが,当地ではどうなのだろうか。ちなみにベトナムはもともと漢字圏なので,「同志」はそのまま Đồng chí と言うそうである。